大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福島家庭裁判所いわき支部 昭和43年(少ハ)4号 決定 1969年2月03日

本人 Y・T(昭二三・四・九生)

主文

本人に対し、昭和四四年四月三日までに限り、医療少年院収容を継続することを認める。

理由

本人は、当庁昭和四二年少第二七九号事件につき同年六月三日医療少年院に送致する旨の決定を受け、右決定に基き同月六日盛岡少年院に入院し、昭和四三年四月二日医療少年院・久里浜少年院に移送され、二〇歳に達した後は少年院法一一条一項但書により、その後同年五月二三日当庁受付の収容継続申請(当庁同年少ハ第三号事件)につき当庁において同年六月一二日本人を同年一一月三〇日までを限度として医療少年院に継続して収容することを認める旨の決定により、さらにその後、久里浜少年院長の本件申請が同年一一月二六日当庁に受理されたことにより、同院に収容を継続されて現在に至つたものである。

本人は、<1>昭和三九年七~八月窃盗、<2>昭和四〇年一〇月、昭和四一年一月、五~九月詐欺、恐喝、<3>昭和四二年三~四月詐欺、恐喝の各非行をいずれも反復累行し、<2>の各非行により昭和四一年一〇月二七日保護観察決定、<3>の各非行により前掲少年院送致決定を受け、さらに、少年院内にあつては、昭和四二年七月末同僚及び職員への暴行、逃走企図、同年九月初逃走企図、同年一〇月職員への暴行、逃走企図(以上盛岡少年院において)、昭和四三年六月上旬同僚への暴行(前同の収容継続決定前)、同年八月下旬逃走企図、同年一〇月下旬同僚とのけんか、同年一二月中旬同僚への暴行の各反則を犯しいずれも謹慎処分を受けているほか、同年一一月中旬同僚への暴行により職員から説諭を受けている。

本人は、久里浜少年院にあつて、昭和四三年八月二級上から一級下に進級し、今後特段の事由のない限り、昭和四四年三月上旬に累進処遇の最上段階である一級上に進級する見込である。

本人の前記非行、反則は、そのほとんどに共同行為者があり、その動機においても単純、かつ、刹那的ないし衝動的と目すべきものである。本人は事後に非行、反則を悔いるものの、その反省も皮相なものであつて、その動機原因に目を向け、かつ、累行を妨ぐにはどうすればよいかを内省するわけでなく、その結果である収容保護、進級、出院の遅延にのみ関心を向けていると思われる。なお、前掲非行は、いずれも、徒食し、パチンコ等の遊興に日を費やしているような生活状態の下でなされており、その基礎には頻回の転職、怠業との関連も窺われる。

本人は、てんかん性の性格異常者であつて、知能が低く、関心の対象は狭く、抽象的思考力に欠け、したがつて、極めて自己中心的で、社会的適応性に乏しい。

前記非行、反則及び事後の態度が上記性格に基くことは、容易に首肯できるところである。その点からすれば今後とも、このままでは、素行不良者等の影響を受け、さほどの動機原因がなくても、再び軽微な犯罪に陥る危険は、極めて大きいものと考えられる。しかし、この面からいえば、従前の少年院での教育はさほどの効果をあげてきたとも考えられないし、今後、相当期間院内において矯正教育を続けることによりこの危険が減ずるとの期特をかけることはできない。

本人は、疾病として、てんかんを有する。右疾病は、<1>全身性間代性けいれん発作、<2>向反発作、<3>周期性不機嫌発作を伴うものと推定される。右疾病は、先天的な真性てんかんか頭部外傷に基くものか明らかでないが、一五歳頃以前からこのような状態にあることは明らかである。従前、本人が投与を受けた医薬(抗けいれん剤等)によつて、服用期間中は前記<1>、<2>の発作を確実に抑えることができるが、服薬を止めると再発し、右疾病は仮に完治するとしても数年を下らない期間を必要とすると推測される。昭和三八年頃、昭和四〇年春頃いずれも<1>の発作があり医師の診断を受け薬剤の連続投与を受け、これにより<1>、<2>の発作は全くなくなつたが、本人は、その後故なく服薬を中断している。少年院にあつても<1>の発作を起し薬剤の投与を受けているが、当裁判所の鑑定命令に基き、医師木下潤が昭和四三年一二月下旬に診断するまでは、専門医師の診断がなされていない。前記非行、反則とてんかんとは直接の関連を有するものと認める資料はないい。けれども、てんかんの発作は、前記の転職、怠業等の一因をなしていることが窺われる場合も少くないし、また、昭和四〇年春から同年秋に至る間のように前記薬剤の継続服用中は、いくぶんとも精神の安定がみられ、労働意欲も強く現われており、このような状態におくことは、非行の原因除去の観点から不可欠なことと思われる。

本人の家族についていえば、父は、窃盗、横領、詐欺の各罪により現に受刑中であり、母は食品店員としてその収入により自己及び妹二人(在学中)の家計を維持しており、経済的観点から本人の出院を強く望んでいる。結局本人の家庭には、本人を監護指導するに相当な者は見当らないにしても特に本人の出院を妨げるような事情は見出し得ない。

以上の事実に基いて考察すると、

本人は、すでに収容継続決定を受けた者である。このような在院者に対しさらに、収容継続決定をすること、すなわち、さきに決定した収容期間を本人の不利益に変更することは、少年院法一一条三項の文言からすれば、とくに同条五項と対比するときは、疑がないわけではない。けれども、収容継続決定は、期間を定めるとはいえ、絶対的な定期収容の決定として、この場合に限り少年院の矯正教育の期間がその目的に応じ可変的である原則(もとより、収容保護である以上、少年院法の定めるところ及び家庭裁判所の裁判により長期が画されることはいうまでもない。)を変更するとまで解するのは相当でないと解するので、結局、再度の収容継続決定も適法になされるものというべきである。このように解さなければ、家庭裁判所としては、将来在院者に生ずべき事由を広く想定し、却つて長期の収容期間を定める弊に陥る虞があり、再度の収容継続の制度を認め、当該時点において家庭裁判所が改めて適切な判断を下す機会を残すのがよりよい解決であると思料する。

以上に述べたところから明らかなように、再度の収容継続決定はあくまで例外的な場合に限られなければならない。在院者にとつては、出院は最大の希望、関心事であり、これへの期特は、矯正教育において積極的な役割をもつというべきである。

本人は、少年院法一一条二項に定める「心身に著しい故障があり」同時に「犯罪的傾向がまだ矯正されていない」ものというべきである。しかし、少年院に引続き在院させても、この状態が容易に除去できないと推測されることは前記のとおりである。前回の収容継続決定後、本人が反則を累行したことも、右決定当時の予測を超えるところとは認められないので、この故をもつて、収容継続を認めることは相当でない。また、少年院法六条一二条二項の趣旨に照らし、処遇の最高段階に達していない事実も、一般的にいえば、出院の当否を決めるための一つの重要な点であることは否定しないが、この点も、本人に関しては、さほど重視できない。

本人の前記精神病の病歴、現状からみて、専門医の監視の下に、服薬の習慣その他右病気に自ら対処する方法を身につけさせることは、短期間でも可能なことであり、犯罪への危険から本人を守るために有効なことである本人の性格からみれば、この措置は、少年院において行なうことが必要である。よつて、これに必要な期間に限り本人を医療少年院に継続して収容することを認めるのが相当である。これに必要な期間は、本決定後二ヵ月間と認める。もつとも、このような措置は、本件申請以前にとり得たところであり、むしろ、従前の病歴に徴し、前記時期に初めて専門医の判断を求めたことは遅きに失したといつても過言ではない。この意味では、本人に故なく不利益(出院の遅延)をもたらしたといえないわけでないが、この点を考慮に入れても、なお、本人の将来のため、右期間の収容継続を認めることは必要、かつ、適当である。

よつて、少年院法一一条四項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 高山晨)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例